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略奪貴公子
第4章 来客がお見えです

 残されたレベッカ。

“ 何を…どうすれば… ”

 横目で伯爵を盗み見る。

 困るレベッカなどどこ吹く風の彼は、窓辺へと歩くと外の景色を静かに眺めていた。

 公爵とにこやかに話していたときとは一転して、その口許からは微笑みが消えてしまったような…。

“ なんだか雰囲気が変わった? ”

 こういう時は社交的な会話でもするべきだろうか。

 それとも、フランスについて尋ねるべき…?

 ぐるぐるぐるぐる…

 考えても何も浮かばない。

「……ハァ」

 こればかりは、大人な対応に馴れた公爵を尊敬するしかないレベッカだった。

「公爵夫人」

「…!…は…い?」

 すると突然声をかけられる。

 伯爵は窓に目を向けたまま彼女に話しかけてきた。

「…この城はいつも、このように外部の者にまで解放されているのですか?」

「解放…と言いますと?」

「正面の城門には見張りの兵のひとりもいません。…ですから私も、黙って庭に入ることができましたから」

「それはベノルト様のご意向です。この薔薇園を身分に関係なく誰でも楽しめるようにと、そう仰っていました」

「……なるほど」


“ 身分に関係なく、ですか… ”


「…?」


 その時レベッカには、伯爵が、幽かに鼻で笑ったかのように見えた。

 見間違いかしら…。伯爵の反応に眉を潜める。

 彼はそれに気づかず話を続けた。

「この庭はまるで薔薇の迷路ですね。上空から眺めればさらに美しいことでしょう」

「…え…ええ…。わたしの部屋からも庭全体を良く見渡せます」

「──おや」

 その言葉を聞いて伯爵は彼女に顔を向けた。

「…ならば、貴方の部屋に案内して頂くことは可能でしょうか公爵夫人」

「……わたしの部屋に?」

「…是非」

「──!」

 此方へ近付いた真顔の伯爵に、真正面から見つめられる。

 そんなことをしても大丈夫なのか

 困ったレベッカが部屋のすみに立つ使用人に目配せすると、別に問題はないという風に頷かれた。

「……っ」

「ご迷惑でなければ」

「…わかりました。案内します」

 ここまで言われて断るのは失礼だろう…仕方がない。

 彼女はふいっと向きをかえて、扉を開けて部屋を出た。


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