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略奪貴公子
第5章 キケンな訪問者
彼を含む、公爵の子息、夫人たちと、初めて顔を合わせたのは婚姻式の時だった。
その式の前後には多くの貴族が祝辞を述べに公爵邸を訪ねてきた。
城の者たちも、初めは皆が彼女を迎えているかに見えた。
ただ…公爵の二人の妻が、新たな妻となったレベッカを疎(ウトマ)しく思っているのはすぐにわかったことである。
もう歳も三十後半となった第一夫人が式当日にレベッカに向けた目線は、まるで売春婦を見るかのような冷ややかなものだった。
『 まぁ、レベッカ様ったらまたドレスの裾をほつれさせて… 』
『 田舎者は平気なのよ。ここに来る前は泥だらけで森を走り回っていたらしいし 』
『 あんな小娘に旦那様を奪われるなんて、奥様がかわいそうだわ… 』
夫人付きのメイド達からのさりげない嫌がらせには辟易(ヘキエキ)する…。
どこぞの貴族とも知れぬレベッカを、認めない者は当然としてこの城にいたのだ。
そんな二人の夫人の態度は、オイレンブルク家の三人の義姉達を思い起こさせる。
「……っ」
思わず鼻で笑ってしまう。
“ …やめやめっ、寝るときまであの人たちの事なんか考えたくないわ ”
自分の寝室まできたレベッカは、部屋の鍵をまわして戸を開ける。
“ また眠れなくなってしまう…… ”
シン──と物音の無い寝室に、ふさいだ気持ちで入っていた。
暗い部屋の中、レベッカは喉の乾きをおぼえてベッドのほうへ歩く。
小さな丸テーブルの上には、しっかり冷やされた水差しがある。
彼女は部屋の明かりを灯し、コップに冷水を注いでコクりと飲んだ。
「……ふぅ」
安堵か、ため息か、どちらともない ひと息。
城の地下に作られた冷蔵用の一室で、大量の氷を見た時は、さすがに彼女も驚いたものだ。
「これひとつとっても、贅沢な暮らしね…」
オイレンブルク家ではこのような冷蔵の設備が十分でなく、食糧の貯蔵には随分と困っていた。
貴族でさえもああだったのだから、庶民はいったいどれ程苦労していることでしょうね……。
……
「──農民たちは貯蔵する食料などそもそも持ち合わせていませんので…そのような心配は不要ですよ」
「……ッ…!?」