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略奪貴公子
第5章 キケンな訪問者


 声の方に顔を向けると、部屋の隅の暗がりから人影が現れる。


「だ……だれ……!?」

「……」

「伯爵…!?」


 信じられないという表情でレベッカは全身を硬直させた。



 どうしてこの人が…?

 それ以前に、いったいどこから侵入したの…!?



「…っ…部屋のドアには鍵が掛かっていたはずです」

「私は招かれざる者ですので、ドアから入ることはありませんよ」

「……?」

「これからは窓の戸締まりにも気を配るべきですね」

 彼がバルコニーに目をやる。

 レベッカはまさかと息を呑み──そんな筈はないと声を荒げた。

「でも…っ、ここは2階です」

「──…フ」

 そんなこと、どうとでもなる。

 そう言いたげに鼻で笑った彼は、マスケラを取りながら彼女に近づき、そっとテーブルに置いた。

 レベッカはそれに合わせて数歩後退り、仮面を外した彼の顔を睨み付けた。

 その顔はまさしくブルジェ伯爵。

 だがその装束は貴族のものではない。

「…泥棒が何の用ですか」

 仮面もマントも、あの夜、花壇に身を隠していた怪盗のものだった。

「泥棒に用を尋ねるとは、あなたも変わった御方ですね」

「今度はこの城のものを盗もうというの!?」

「さぁ?それもいいですが……。ただひとつ、問題が」

 男の切れ長の目が鋭く細まる。

「困ったことにどうしても、先に済ませておかなければならない仕事があるのですよ……」

「──ッ」

 ハッとした彼女が逃げる前に、素早く伸びた伯爵の手に腰を捕らえられ、口をふさぐようにあごを鷲掴みにされた。


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