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略奪貴公子
第5章 キケンな訪問者

 抵抗するレベッカだが男の力には敵わず、グッと力を込めて顔を覗きこまれる。

「この城の物に手をつけるには──
 その前に……口封じが必要なのです」

 艶めく声が、僅かに低くなり、口許から笑みが消える──。

 ふさがれた口の奥で、彼女の歯が震えて音を立てた。

「──…」

「……ッ」

「怖いのですか?」

「ん……!」

 彼の雰囲気は冷たかった。

 これは冗談ではない…。そんな目でレベッカを脅す。

 声も出せないレベッカはすっかり縮こまり、ただ怯えるしかなかった。

「私の正体を知った時点で、あなたはそれを公爵に伝えるべきだった」

「─ッ…」

「…何故伝えなかったのですか?」

 伯爵は微かに笑ってみせた。

 しかしそれは微笑みではない。

 もっと、もっと危険な何か──。

“ 殺され る……? ”

 怪盗の正体を知ってしまったから、わたしは殺される?

 口封じに殺されてしまうの…!?

「あの夜も…衛兵に私の居場所を教えることができただろうに」

 痛いところをつかれる。その理由は彼女自身にすらわからないのだから。

 あの時の自分を後悔するレベッカが、恐怖のあまり目に涙を浮かべていた。だが──

「──しかしあなたは運がいい」

「……!?」

「私は血が嫌いだ」

 その言葉を合図に顎を掴んでいた力が緩み、腰は捕らえられたまま、突然、口だけを解放された。



 口を解放されたものの、出す声のないレベッカ。



──クッ



「…なっ」


 場を支配していたその鋭い緊張感は、伯爵の噛み殺した笑いによって砕かれた。



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