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略奪貴公子
第5章 キケンな訪問者

「……」

「何が可笑しいの…!?」

 彼の態度がレベッカにとっては不気味でしかたがない…。

 動けない彼女の頬に伯爵は手を添えて言った。

「いや──ただ、怯えるあなたの姿が意外にも可愛いらしくて」

「…っ…な、んですって」

「強がりはもうやめてはいかがですか。その刺のある口調も…あなたに似つかわしくありません」

「──っ」

“ 何が言いたいの?いったい…… ”

 何者だというのだろうか、この男は…。

 夜中に勝手に人の寝室に忍びこみ。そして脅しをかけておいて…。まだ会って間もない自分のこの姿を

 " 強がり " だと、そう言うのだ──。

 朱い光が薄暗く灯る寝室で──。まだ内に残る恐怖と戦いながら、レベッカは懸命に声を絞り出した。

「…ふざけないでください」

 惑わされてはいけないわ…!

「どういうつもりか知りませんが…わたしは強がってなどいないし、第一にあなたは…っ」

「──強情ですね。私がお手伝いしましょうか?あなたがこもる何重(イクエ)にも重なった繭(マユ)を、一枚ずつ……剥ぎとるお手伝いを」

「──…伯爵!?」

「クロード」

「……っ」

「──今宵の私は伯爵ではない。
 どうぞ、クロードと御呼び下さい公爵夫人」

 レベッカの頬に添えられていた指が顎のラインを辿って下降し、顎を支えるようにして、下からクイッと持ち上げた。

 上を向かされた彼女の顔に、男の影が近づく。



「──ッ 」



「……私はただの、怪盗ですから」



 怪盗の仕事は《 奪うこと 》です

 たとえ獲物が抵抗しようともね──。



 接近したクロードからふわりと良い香が漂った時には、彼女の唇には男のそれが重ねられていた──。



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