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略奪貴公子
第5章 キケンな訪問者

「ハァ……ハァ……いい加減に、して」

「……」

「何のつもりですか、こん な…っ」

「──っ、これは面白い…。公爵があなたを遠ざける理由がわかりましたよ」

「……っ」

 何故この人が、その事を…!?

「あなたが初夜に、公爵に爪を立てたという噂は本当のようですね?」

「それは…」

「可憐な貴婦人かと思いきや、とんだおてんば娘だったというわけですか」

 顎を掴んでいた手が離れる。

 小馬鹿にするクロードの目から逃げるように、レベッカは顔を俯かせた。


 彼の話は事実だった。あの日……

 初めての痛みに堪えられなかったレベッカは、公爵の身体に爪を立てて引っ掻き、傷を負わせてしまった。

 公爵に怪我をさせるなど、普通なら簡単に牢獄行き…。

 しかし公爵は彼女を咎めず、それどころか、このことが外部に漏れないように気を配った。

 しかしいったい何処から嗅ぎ付けるのか。数日後には、城中にこの事実が広まっていたのだ。

『 初夜で夫に傷を負わせるなんて、娼婦にもなれない憐れな女… 』

 口の悪い第二夫人のこの言葉は、偶然か必然か、レベッカの耳に入ってしまう。

『 痛いのが嫌だと先に教えてくれれば、俺が手ほどきしてさしあげたのに 』

 馬鹿にしてくるエドガーにこんな侮辱を言われたのは、つい昨日のことだった。



「…………いいから早く離して」

「──…」

「お願いします…っ」

 レベッカは俯いたまま、手を離すようクロードに願う。

 それきり口を閉ざした彼女の胸には、重苦しい塊(カタマリ)が沈んでいた。



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