この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
略奪貴公子
第5章 キケンな訪問者
「ハァ……ハァ……いい加減に、して」
「……」
「何のつもりですか、こん な…っ」
「──っ、これは面白い…。公爵があなたを遠ざける理由がわかりましたよ」
「……っ」
何故この人が、その事を…!?
「あなたが初夜に、公爵に爪を立てたという噂は本当のようですね?」
「それは…」
「可憐な貴婦人かと思いきや、とんだおてんば娘だったというわけですか」
顎を掴んでいた手が離れる。
小馬鹿にするクロードの目から逃げるように、レベッカは顔を俯かせた。
彼の話は事実だった。あの日……
初めての痛みに堪えられなかったレベッカは、公爵の身体に爪を立てて引っ掻き、傷を負わせてしまった。
公爵に怪我をさせるなど、普通なら簡単に牢獄行き…。
しかし公爵は彼女を咎めず、それどころか、このことが外部に漏れないように気を配った。
しかしいったい何処から嗅ぎ付けるのか。数日後には、城中にこの事実が広まっていたのだ。
『 初夜で夫に傷を負わせるなんて、娼婦にもなれない憐れな女… 』
口の悪い第二夫人のこの言葉は、偶然か必然か、レベッカの耳に入ってしまう。
『 痛いのが嫌だと先に教えてくれれば、俺が手ほどきしてさしあげたのに 』
馬鹿にしてくるエドガーにこんな侮辱を言われたのは、つい昨日のことだった。
「…………いいから早く離して」
「──…」
「お願いします…っ」
レベッカは俯いたまま、手を離すようクロードに願う。
それきり口を閉ざした彼女の胸には、重苦しい塊(カタマリ)が沈んでいた。