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略奪貴公子
第6章 外界へのエスコート
「あら…貴方は先日おこし下さった伯爵様?」
レベッカの焦りに気が付かないエマは、クロードに何の敵意も示さない。
「クロード=ミシェル・ジョフロワ・ド・ブルジェと申します。覚えていて下さり感謝しますよ」
「ブルジェ伯爵…とおっしゃるのですね。貴方はあの日以来、メイドたちの憧れの的ですから!」
エマは顔を赤くする。
あの日…クロードが正式に公爵に挨拶に来た時は、異国の若い伯爵に年頃の女たちはみな色めき立っていた。
また訪ねて来ないかと、メイド仲間がぼぉっとした顔で空を眺めていたものだ。
「でもごめんなさい。旦那様は宮殿に行かれておりまして、ここにはいらっしゃいませんの」
「構いません。私はこの庭をまた拝見したく伺っただけです…。公爵様が寛大にも許可して下さったので」
クロードはにこやかな笑みを浮かべて、緊張気味のエマに応えた。
女たらし……
“ エマ!騙されないで……! ”
椅子に座るレベッカの表情は穏やかでなく、警戒心丸出しだった。
で、結局──
クロードも朝食に同席することになってしまった。
日除けのテラスの下に置かれた丸テーブル。その上には白地のクロス、そして銀食器。
メイドたちが小皿に盛り付けた前菜を前にして、隣り合うようにして座った二人。
そこは薔薇園からは少し離れた場所に面しており、微かなハーブの香りが漂っていた。
そして、二人きりになった途端
カチャ カチャ....
先日と同様に、やはりクロードの顔からは愛想笑いが消える。
とくに話がはずむわけもなく、フォークの音が控えめに鳴るだけだった。
「……」
ただ今度はレベッカが気まずさを感じるようなことにはならなかった。
今となっては、わざわざクロードに気を遣って話題を探す必要もないから、構わずパクパクとサラダを口へと運んでいく。
ポタージュを運んできたメイドは、そんな無言の二人を見てさすがに心配になる。
ニコッ
「──ッ//」
そんな彼女へクロードは微笑む。
「……っ」
いよいよ我慢できなくなったレベッカは、メイドが赤くなって立ち去った後、その顔をクロードに向けた。