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略奪貴公子
第2章 見初められた花嫁
「…それで? そんなに急いでどうしたの?」
「奥様がレベッカ様をお呼びです。──…ある殿方が此方を訪ねていらっしゃるとの伝達が入りましたので」
「……ある殿方?」
「とにかく支度をするようにと仰せつかりました。どうぞお急ぎ下さい」
「──…」
だからこの時も、彼女はただ素直に…この行く末を受け入れた。
屋敷に戻ったレベッカを待ち受ける数人のメイド。
彼女達は、レベッカの土で汚れたドレスをさっさと脱がせるとバスルームへ突っ込み、湯をはったバスタブの中でくまなく全身を洗う。
そうしてぴかぴかに磨きあげた後で真新しいドレスを着付け始めた。
「…っ…ちょっ、ちょっと、締めすぎじゃない?」
下着の上にシュミーズを着た彼女に二人がかりでコルセットがはめられる。
──まるで鎧。
“ 何度着ても慣れない…っ ”
「苦しッ…」
ギュウウ…ッ
レベッカの顔がひきつる。
だがメイド達は容赦なかった。
ドレスの着付けが終わり髪を丁寧に結われた後、彼女は夫人の前に付き出された。
「まぁまぁ実に美しく…」
「……」
「これなら相手が誰であろうと恥ずかしくありませんね」
「…御義母さま? これから訪ねてくる殿方とはいったい──」
「身分も高貴な大切なお客様です。しくじるのではありませんよ」
「……、はい」
《 しくじるのではありませんよ 》
義母の言った最後の言葉が、レベッカの頭の中で何度も反芻(ハンスウ)される。
そんな彼女は、栗色の長髪を編み込むように結い、その瞳と同じバイオレットカラーのドレスを身に纏い……、まるで何処かのパーティーにお呼ばれしたかのような装いだった。