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略奪貴公子
第6章 外界へのエスコート

「この花をご存知ですか?」

「…え?」

「プリムローズです」

 彼がそう言って立ち止まった足元には、レモンイエローの小さな花が咲いている。

 その数は、花壇に植えられた低木の根を覆ってしまうほどだった。

 株を外国から取り寄せてこの城に植え直したという…ドイツには珍しい低木たち──。その根本に咲く黄色の花は反対にありふれた花であるから、誰もこの花に目を向けることはないかもしれない。

「この花は薔薇のように手入れなどしなくとも、春になればところ構わず地を覆う」

「確かに、同じローズでも真反対ですね」

「あなたはどちらが好きですか?」

「どちらがと聞かれても……」

 レベッカは彼の横に立ち、同じように花壇を見下ろす。

「…両方、好きです」

「──そうですか」

 当たり障りのない彼女の返事だが、それを聞いたクロードはどこか楽しそうに辺りを見渡した。

 そして次はまた別の花壇に目を向けて、クロードは彼女に話しかけるのだった。

「あの白い花はクロッカス…」

 花言葉は

 青春の喜び

「──…」

 レベッカは相づちを打つのを躊躇(タメラ)いながら、彼の行動を監視する。




───



 ギリシャ神話に登場する美青年クロッカス


 彼はある日、恋に落ちた


 その相手は羊飼いの娘


 娘の名はスミラックス──


 スミラックスも、彼を愛した


 二人は幸せの絶頂だった……



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