この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
略奪貴公子
第6章 外界へのエスコート
「この花をご存知ですか?」
「…え?」
「プリムローズです」
彼がそう言って立ち止まった足元には、レモンイエローの小さな花が咲いている。
その数は、花壇に植えられた低木の根を覆ってしまうほどだった。
株を外国から取り寄せてこの城に植え直したという…ドイツには珍しい低木たち──。その根本に咲く黄色の花は反対にありふれた花であるから、誰もこの花に目を向けることはないかもしれない。
「この花は薔薇のように手入れなどしなくとも、春になればところ構わず地を覆う」
「確かに、同じローズでも真反対ですね」
「あなたはどちらが好きですか?」
「どちらがと聞かれても……」
レベッカは彼の横に立ち、同じように花壇を見下ろす。
「…両方、好きです」
「──そうですか」
当たり障りのない彼女の返事だが、それを聞いたクロードはどこか楽しそうに辺りを見渡した。
そして次はまた別の花壇に目を向けて、クロードは彼女に話しかけるのだった。
「あの白い花はクロッカス…」
花言葉は
青春の喜び
「──…」
レベッカは相づちを打つのを躊躇(タメラ)いながら、彼の行動を監視する。
───
ギリシャ神話に登場する美青年クロッカス
彼はある日、恋に落ちた
その相手は羊飼いの娘
娘の名はスミラックス──
スミラックスも、彼を愛した
二人は幸せの絶頂だった……