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略奪貴公子
第2章 見初められた花嫁
「アドルフ、何か言った?」
「──それも半月後か…。ずいぶんと早いな」
幹に寄りかかったレベッカの横に、片膝を立てて腰を下ろした彼は、彼女と同じ方向を向く。
「……?」
レベッカは隣に座ったアドルフの横顔を訝(イブカ)しげに眺めた。
少しして、アドルフは眼前の草むらにひそむ野うさぎから目を離す。
彼の黒髪から覗く臙脂(エンジ)色の瞳が、レベッカを見つめ返した。
「早速、邸はその話でもちきりだ。旦那様もそりゃあ大喜びだったぜ。これで…我がオイレンブルク家の将来は安泰だとな」
「そうでしょうね」
「お前はいいのかよ」
「べつに、なんとも」
これといって表情を変えないレベッカだが、アドルフの目は真剣だった。
…そもそもアドルフは彼女を《お前》呼ばわりできるような身分の男では決してない。
爵位など持っていない彼は、貴族御用達の工房に入っている鍛冶職人のひとりにすぎない。
そんな彼とレベッカがあったのは、彼女がここに養子として引き取られてすぐの頃だ。
歳もふたつしか違わない少年が、炎と向き合い鉄を振るう姿に…まだ少女だった彼女が惹かれたのだ。
二人はすぐにうちとけ
そして…あれから七年を共に過ごしてきた。
彼等は恋人同士ではない。
そんな関係ではなかった。
ただ、アドルフは彼女が興味を持つことをできうる限り教えてやった。
代わりに彼女は彼に読み書きと勉学を教えた。
この家に引き取られてから、レベッカにとって彼だけが心を許せる唯一の存在だったのかもしれない。