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略奪貴公子
第2章 見初められた花嫁

「癪にさわるって…何が?」

「──わかんねぇの?」

 彼はその身をレベッカに寄せる。

 驚いたレベッカが肩をすぼめるものの、彼はその肩を木に押し付けた。

 そして大木に両手を付き……彼女を腕の中に閉じ込めてしまう。

「……っ」

「そうやって俺の前でも強がって……平気なふりなんてしてもバレバレなんだよ」

「つ、強がりではないわ…!」

「……へぇ?」

 アドルフは冷たい笑みを浮かべ彼女を覗きこむ。

 臙脂(エンジ)の瞳は顔の陰影で隠され、黒みを増した紅(クレナイ)が……その影からじっと見つめていた。

 背後の幹と彼の腕で逃げ場を奪われたレベッカは、僅かに声を上擦らせた。

「…っ、近いわよ、アドルフ…!」

「…うるせぇよ」

「──…ッ」

 ──怒らせてしまったのだろうか。

 少し威圧的な態度はいつものことだけれど、今の彼はそれだけではない気がした。

「わたし…あなたを怒らせたの?」

「…これが喜んでるように見えるか?」

 彼女の問いかけは、同じく問いで返される。

「俺は貴族が吐き気がするほど嫌いだ」

「──…ッ 」

「──その理由がわかるか」

 アドルフは片手を彼女の頬に添えた。

 高圧的な態度だが、触れた手はそっと優しさを含んでいる。

 近すぎる距離──

 それでも二人は目をそらさなかった。

「…理由を、教えて?」

 レベッカは素直に尋ねる。

 今度はアドルフも…静かな声で、答えた。

「お前をこれだけ苦しめている…それが『 貴族 』って御身分だからだよ」

「……」

「邪魔でしかたねぇ」

 静かだが、怒りを抑えきれぬ声で。

「…ってのに、お前はなんでそうやっていつも我慢してんだ? なぜ不満を言わない?」

「──…」

「なぜ怒らない……!」

 理不尽な運命を歩む彼女はいつも諦めの目で世界を見ている。

 不満をぶつけない彼女。

 アドルフにはそれが我慢ならなかった。


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