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略奪貴公子
第9章 招待状

「…こんにちは」

「──…」

「いや、じきに日も沈む頃…。こんばんはと言った方が宜しいでしょうか」

 緊迫した空気に似つかわしくない柔らかさで、伯爵は三人に挨拶した。

「──…」

 しかしエマの表情を見たクロードは静かに足を止めた。

「──どうやら私は招かれざる客のようだ」

「……っ」

「そのようですね?可愛らしいメイドのお嬢さん」

「そんな…招かれざるだなんて」

 とんでも御座いません。と、エマは慌てて否定する。

 けれど残念ながら、本当は否定できないのが実情だ。

「本日はどうしてこの城においでくださったのですか?」

「…公爵夫人に、用がありまして」

 名指されたレベッカは固まっていた表情を、ますます硬直させた。なので代わりにエマが聞き返す。

「どのような用事でしょうか?」

「…ここでは話せません」

「……」

「──ぜひ、二人だけで」

「恐れながら…っ、それを許可することはできないのです、ブルジェ伯爵」

「──?」

 エマは恐る恐る、クロードからレベッカへの申し出を断った。

 仕方がなかった。

 レベッカを縛り付けたくないという本音こそあれ、彼女に不利な噂が広がることも…同じように好ましくないからだ。

 ここで二人きりで話しているところを誰かに見られたら…と、そう考えれば、断るしかない。

「申し訳ございません…」

「──そうですか、それは残念です」

 意外にもクロードはあっさりと引き下がる。


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