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二重生活
第2章 miniature garden
ルイボスティーを淹れ、ソファに身を委ねる。

カッシーナを代表する不朽の名作と言われるこのソファは、ニューヨーク近代美術館の永久コレクションにも選ばれたそうだ。
曲線だけでデザインされた見た目の美しさだけではなく、自在に変化する背もたれや、極上の座り心地を実現し、ソファの理想系を体現したとも言われている。

これは、もちろん雄一の受け売りなのだけれど。
本当に素晴らしいソファだと感じる。


鞠香はケータイを手に取った。わりと放置するほうなので、気がついたときはなるべく手にするようにしていた。

昔からの友達で、唯一よく連絡をしてくる沙織から着信があり、折り返した。

「沙織元気? どうしたの?」

尋ねると、

「鞠香~! お願いがあるの~! 一生のお願い! 鞠香様~」

音が割れるほど大きな、鈴の音のようなコロコロした沙織の声。下がった困り眉とふっくらしたほっぺたを思い出す。

「ちょっと、待って。内容もわからないから。落ち着いて」

「そっかそっか。そーだよねっ! あのね、仕事がうまくいかなくて、失敗続きで、勢いで辞表出してきたのね! それで、バイトを始めようと思って、行きつけのカフェにお願いして、ねじこんでもらえることになったわけ」

「うん……」

行動力に驚きつつ、何となく返事が鈍る。

「でも上司から連絡があって、この前書いた企画書が通って、大きなプロジェクト任せてもらえることになって。
『辞表ももともと破棄してた。しばらくリフレッシュしたらちゃんと戻ってきてくれ』って」

最後は、そのやり取りを思い出したのか、涙声になる沙織。

「うん、よかったね。ほんと、頑張ってたもん」

「ありがとう……。でね、問題はカフェなのよ。すごくすごく大好きなお店でこれからも通いたいし…………。顔を立てると思って……」


ねえ、鞠香、そこで働いてくれないかなぁ?


沙織は、そう、言ってのけた。
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