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二重生活
第14章 夢のあと
マンションのエントランスは、今日も変わらず威風堂々とした風格を漂わせていた。
違うのは、鞠香がここを通る時間だった。
コンシェルジュがにこやかに挨拶をしてくれたけど、やはり知らない顔だった。

そんな小さなことが、胸をチクリと刺していく。

部屋に帰ると、雄一がコーヒーを飲んでいた。

「遅くなってごめんなさい……」

「おかえり。楽しかった?」

「うん」

曖昧に返事をして、キッチンに立つ。
手早くクロックムッシュを作ってテーブルにおいた。
チーズが焼ける香ばしい匂い。ベシャメルソースがハムの上でぐつぐつと音を立てていた。
これを作ると、雄一は機嫌がいい。

「いつも寂しい思いをさせてるから、友達とこうしてもっと遊んだらいいよ。みんな朝まで飲んでたの?」

パソコンで何かを見ながら、雄一は朝食を頬張る。

こっちを見ていないことが、救いだった。

「ありがとう。うん。朝までいたよ。みんなお酒強いんだ」

嘘をつくときこそ、冷静になれるものだと初めて知った。

ポピーの無垢な瞳が、鞠香を見上げていた。
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