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二重生活
第15章 スピカ
しばらくすると、賑やかな一行が桜の下で写真を撮りはじめ、その賑わいに引き寄せられて、道行く人が立ち止まりだした。

「順番かわろっか」

彗君が言って、今度は原宿駅方向へ歩くことになった。
夜は深くなるのに、家からどんどん離れていく。
鞠香は、そのことに気づかないふりをした。

昔、『夕焼けこやけ』が流れても帰りたくなくて、相対性理論なんて知らなくても、楽しいことほどすぐ終わってしまうことを知った。
あのころは、それでも、帰ると美味しいご飯と優しい母が待っていてくれて、帰っても結局は楽しかった……。
一人の寂しい夜なんて、経験したことがなかったあのころ……。


明治通りに出て、ふと思い出す。

「彗君、そういえばここにも桜があるよ」

都会の谷間の静寂な空間。結婚式場でも有名な由緒ある神社だった。

「お寺から神社のはしごだ?」

「ご利益二倍かな」

真っすぐな線で構成された山門を抜け、池を目指す。
そこには、灯りに照らされた幻想的な桜の姿があった。
時折風が吹いて、花びらが舞う。
夜空の濃紺と桜色、葉の緑。
美しい庭を前に、しばらくの間言葉もなく佇んでいた。
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