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二重生活
第17章 in the closet
「彗君……?」

ぐちゃぐちゃになった気持ちは、とても鎮まりそうもなかったけど、彗君は全然反応していなくて……。
泣きそうになって見つめると、そっと腕の中に包み込まれた。

「鞠香さん……。俺、すべて受け止めてるつもりだよ。嫉妬しないように、欲張らないように、今は立場わきまえてるつもりだよ」

「それでも…私……。こんなときだから、私……」

「わかってる、でも、俺は二人を見ても現実に戻ったり、諦めたりしないから。気持ちは何があっても変わらないから。これから一緒にいるために、今のことも大事にしよう?」

「……」

「鞠香さん?」


「……私、誰も傷つけたくない。なのに、裏切ったり、身勝手になったり、嘘ついたり、わかってるのに、どうしてこんなに彗君のこと好きになっちゃったんだろう……」

「俺も、鞠香さんが独身だったらって何度も思ったよ。
鞠香さんの幸せを壊してしまうこと、自分がまだ一人前じゃないこと、いろいろ考えてはじめは諦めようと思ってたけど、好きになるのはあっという間だった」

「……うん」

「俺、これからのことちゃんと考えるから、しばらく、俺のために嘘ついてほしい。悪い女になってほしい」

人の倫に反することも、嘘をつくことも……
正当化していた。
言い訳していた。
そんなやましさを、彗君は軽くしてくれようとしているの?

「私、ずっとこの生活に寄りかかりきってた。もし、新しい毎日をはじめるとしたら、すべて捨てて、一人で生きていけるようにならないといけないよね」

彗君は、少し悲しそうな眩しそうな顔をして笑った。

「ごめんね……、鞠香さん」


(この思いが雄一に知られることがないようにしなくちゃいけない……)

それは、彗君のために。自分のために。

鞠香は身なりを整えて、フロアへ一歩踏み出した。

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