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二重生活
第19章 春眠
沙織は、あれこれと熱心に選んでいたようで、

「鞠香!」

呼ばれてハッとしたときには、軽く小一時間が経とうとしていた。
また、うとうとしてしまったみたい……。


紅茶をすすめたけど、沙織は仕事に戻らないとと言って、バタバタと帰っていった。


鞠香は、くすくす笑いながら伸びをして、ポピーを抱き上げた。

「ほんと、沙織って相変わらずね」



(……そういえば、
沙織が着ていったワンピースは、雄一が一番私らしいと褒めてくれたものだったな……)

一目で質のいい生地だとわかる、高級ブランドの女性らしいワンピース。

本当はもっと、プチプライスで買える洋服でいろいろなコーディネートを楽しみたかったけど、
雄一の隣に並ぶとき、高級でシンプルな洋服がベストだということはわかっていたから、自然とそちらに合わせるようになっていた。



だから今、バイトに、自分の好きな洋服で行けるのは、とても嬉しかった。

大好きなネイビーに、鮮やかなピンク色のバッグや靴で色をさしたり、雄一といるときはかぶらなくなっていたキャップをかぶったり。

ラフォーレや竹下通りをブラブラして、安くてかわいい靴下やアクセサリーをじっくり選ぶ小さな幸せを、ずっと忘れていたと思った。


ダイアモンドにはダイアモンドの素晴らしさがある。
だけど、ハッと目をひく色鮮やかなガラスもまた美しかった。

(沙織、デートうまくいくといいな。今度会ったとき、いっぱいノロケ聞いちゃおうっと)

鞠香は、伸びをすると、一気に家事をしてしまおうと、勢いをつけて立ち上がった。
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