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二重生活
第20章 GW
「わぁ、これ美味しそう! こっちもいいなぁ」

お弁当を選ぶはずが、お惣菜やおつまみを前に目移りする鞠香に、

「俺も迷っちゃうな。もーさ、好きなものじゃんじゃん選んで。初めての旅行だから、とことん楽しもう」

彗君は、笑って言った。

時に、女同士みたいに迷うことも楽しんで、はしゃいでくれる彗君の隣は、本当に楽しいと思った。

お酒や食べ物を抱えてホームへ行く。

そして、すべるように入ってきた電車に乗車した。

発車するとともに乾杯して、「わくわくするね」と笑い合った。
鞠香が話して、彗君が笑う。
彗君が話して、鞠香が笑う。
話は尽きなくて、その居心地のよさに感動する。

「鞠香さん、今日いつもに増して可愛い」

「……ありがとう」

「ハハッ、赤くなってる。もうホロ酔い?」

彗君の言葉でこうなったんだよ……。

「昼間のお酒は酔うの!」

照れ隠しで腕に寄りかかって窓の外を見ていると、

「今日はいっぱい酔って、いっぱいしよーね」

囁きとともに、耳たぶにキスをされた。

「ひゃっ……」

「乱れまくっていーよ」

イタズラっぽい笑みで見つめる切れ長の瞳に、全身を巡る血の勢いが増した気がした。

「あ、見て! 鞠香さん! 海!」

一転、無邪気な笑顔で身を乗り出す彗君に、笑いが込み上げる。

「ほんとだ。キラキラして綺麗」

斜め45度上の存在にドキドキしながら、二人で海を眺めた。

どうしよう。行く前から楽しい思い出になるとわかる。
また、もっと好きになるとわかる。
きっと、もっと求めてしまう。

景色を振り払うように後ろへ押し流していく、車窓。
一秒一秒、時が経っていく。

それがもったいなくて、彗君の手を、ぎゅっと握っていた。
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