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二重生活
第3章 CAFE a.m.
「彗くん!」

すい……くん。

彗と呼ばれたその男の子は、鞠香のほうもちらりと見ると、

「こんにちは。
オーナーは、奥のテーブルにいます。どうぞ」

そう言って、薄く笑った。

(笑うと、片方の頬にえくぼができるんだ……)

「かっこいいでしょ? 顔ちっちゃくて綺麗でしょ? 初めて見たときモデルかと思ったもん。いや、少女漫画系? ま、鞠香には優しいダーリンがいるから興味ないと思うけどねっ」

沙織が、いいないいなーあたしなんてさ……と続ける話も半分聞いていなかった。

あの瞳……。もし、あの瞳に何秒も見つめられたら……。



「ん? 鞠香? そんなにこのお店気に入っちゃった?」

沙織に顔を覗きこまれ、ドキドキと心臓が早鐘を打つ。

「……うん。すごく気に入ったかも……」

薬指にはめた指輪を、指ごとギュッと握りしめた。



私は主婦だ。
それも、とても幸せな……。

鞠香は前を向いて微笑むと、お店の中へと足を踏み入れた。
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