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二重生活
第21章 encounter
脱衣場を出ると、後ろから「待って」と声がした。

「彗君……」

涙が溢れる。手をとられ、お互い無言のまま部屋に戻った。




「鞠香さん……。どうして、俺を近づかせないようにしたの?」


「……」

「違うんだ……責めてるんじゃなくて……ごめん。俺、どうしたらいいか、わからなかった。
もし、店や旦那さんにバレたら鞠香さん困らせるのかなとか、色々考えて……」

「大丈夫だよ」

「でも、泣いてる…………」







鞠香は、後ろを向いて、浴衣を肩から外した。

「ごめんなさい……」

あらわになるキスマーク……。

「私……もっ……ヒッ……ク……リョウ君に見つかって、……ッ……彗君に迷惑がかかるのが……嫌……だったっ……」

「なんでそんなこと……。鞠香さん、ほんっとバカだな……。俺はいつだって覚悟してるのに……。
こんな目に合わせて、ほんとごめん……」

浴衣を戻して、後ろからギュッと抱き締めてくれた。
強く、強く。

「もう一回風呂入ろ」

「うん」

何度もお湯をすくっては、肩からかけてくれる。
優しく柔らかく包んでくれる腕に、癒されていく。


「彗君」

「ん?」

「今夜はずっと、抱き締めててね」

「いーよ、ずっと抱き締めて、鞠香さんの寝顔見てる」


(……私。……彗君じゃなきゃダメみたい、もう彗君しかダメみたい……)

愛しくて、回された腕をもっときつく身体に巻き付けて、頬を寄せた。

「鞠香さん、柔らかくてすべすべで気持ちい……。ずっと俺だけでいて……」


「はい……」

彗君の熱っぽい瞳が、嬉しかった。



「可愛い。キスしたい……」

「して……ほしい……」



弾む水音。
二人は、ふやけてしまうほど長く、唇を合わせ続けていた。
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