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二重生活
第21章 encounter
翌日は、朝食のあと、すぐにチェックアウトした。




どこにいても、誰かに見られる可能性があること。

たった一度でも手を繋いでいるのを見られたら最後という、その一度が、とても重大だということ。

堂々と一緒に歩けない間柄だということを、改めて思い知らされていた。


そのとき、雄一から、遅くなるけど今夜中に帰ることになったと連絡が入った。
思わず、ため息が漏れていた。


「鞠香さん?」


すぐに心配して気にかけてくれるこの声を、明るい響きに変えたくて、


「今ね、彗君ちに帰ったら、昨日買った日本酒飲みたいなって考えてたの。何作ろっか。スーパー寄っていかないとね」

弾んだ声で言う。

帰らないためにまた嘘を重ねないといけないと思うと、本当は心が重かった。



そういえば……昨日届くはずの荷物があった。
宅配ロッカーに入れられていると思うけど、伝票はポストに入っているだろう。
きちんとその日のうちに荷物を取りに行く鞠香の性格を、雄一は知っている。
雄一が先に伝票に気づいたら、違和感を覚えるかもしれない。

取り繕わなくてはいけないこと、隠さなくてはいけないことが山ほどあるのに、
以前の自分がどう暮らしていたか、だんだんと思い出せなくなっていた。


鞠香のような専業主婦が一番、不倫を通じて変化していく様がわかりやすいような気がした。




雄一に、メールを打った。

【今夜、沙織とまた会うことになったの】


……送信。



それから、夜に再度送る文面を作って、保存した。

【うっかりしていて、昨日届いていた荷物を宅配ロッカーから取り忘れてました。帰ったら取りに行くので気にしないでね】

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