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二重生活
第21章 encounter
彗君の部屋に入った瞬間、緊張や疲れがゆるゆるとほどけていくのを感じた。
白い光が舞う鞠香の部屋とは違う、琥珀の灯りに包まれた彗君の部屋で、日本酒を飲みながら、お笑いのDVDを見たり、トランプをして遊んだ。
ずっと自分は、一人遊びが好きなタイプだと思っていた。
雄一といるときは、互いに読書や料理や仕事、違うことをして過ごしていたし、それが、穏やかで尊重しあえる関係だと信じていた。
だけど、彗君といると、ポピーを取り合うように構ったり、テレビを見ながらあれこれ話したり、いつも二人で何か一つのことを共有していて。
それが心地よくて楽しくて、そして寂しくなかった。
「狭くて落ち着く」
と言ったら、なんか複雑と彗君は笑っていたけれど。
鞠香は、その夜、日本酒にとどまらず、ワインもたくさん飲んだ。
笑って、笑って、笑って。
だけど、ずっと、雄一がいつ帰ってくるのか、どう思うのか気になって酔えなかった。
もし、雄一が沙織と偶然会ってしまったらどうなるの?
もし、地震が起きたらどうなるの?
もし、体調が悪くなったらどうなるの?
不安が不安を呼んで、「万が一」を考え出してしまう。
彗君といるのに安心できない、はじめての夜だった。
きっと、リョウ君に遭遇した衝撃が、響いているのだと思った。
こんなに、笑っているのに。
「鞠香さん、今夜は家に帰りな」
突然、彗君が言った。
突き放すでもなく、諭すでもない、ただただ優しい声だった。
「どうして?」
「無理させたくない。大丈夫。俺はいつもいて、いつでも会えるから。連絡もするから」
白い光が舞う鞠香の部屋とは違う、琥珀の灯りに包まれた彗君の部屋で、日本酒を飲みながら、お笑いのDVDを見たり、トランプをして遊んだ。
ずっと自分は、一人遊びが好きなタイプだと思っていた。
雄一といるときは、互いに読書や料理や仕事、違うことをして過ごしていたし、それが、穏やかで尊重しあえる関係だと信じていた。
だけど、彗君といると、ポピーを取り合うように構ったり、テレビを見ながらあれこれ話したり、いつも二人で何か一つのことを共有していて。
それが心地よくて楽しくて、そして寂しくなかった。
「狭くて落ち着く」
と言ったら、なんか複雑と彗君は笑っていたけれど。
鞠香は、その夜、日本酒にとどまらず、ワインもたくさん飲んだ。
笑って、笑って、笑って。
だけど、ずっと、雄一がいつ帰ってくるのか、どう思うのか気になって酔えなかった。
もし、雄一が沙織と偶然会ってしまったらどうなるの?
もし、地震が起きたらどうなるの?
もし、体調が悪くなったらどうなるの?
不安が不安を呼んで、「万が一」を考え出してしまう。
彗君といるのに安心できない、はじめての夜だった。
きっと、リョウ君に遭遇した衝撃が、響いているのだと思った。
こんなに、笑っているのに。
「鞠香さん、今夜は家に帰りな」
突然、彗君が言った。
突き放すでもなく、諭すでもない、ただただ優しい声だった。
「どうして?」
「無理させたくない。大丈夫。俺はいつもいて、いつでも会えるから。連絡もするから」