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二重生活
第23章 毒りんご
「……いや、沙織さんも可愛いけど、マジで彗はかっこいいですよ。正統派だから、女もほっとかなくて。
でも、彼女いないはずなのに、全然相手にしてないですけどね」

リョウ君が終わりかけた彗君の話をまた持ち出し、鞠香は、素知らぬ顔をしてグラスを傾け続けた。

「へー。二人とも、365日分の彼女がいてもおかしくなさそうなのになぁ。な、鞠香」

フリーズしてしまいそうなのを隠して、

「そうかもね」

口元に笑みを浮かべた。

「ま、俺は一時期そうでしたけどね。
でも、今日、本気で好きになれそうな人に出会えたところです」

皆が、一斉にリョウ君を見た。
雄一が、目を丸くしていった。

「……沙織ちゃん!? おー、そうなのかそうなのか、公開告白か。さすが若者だな」

「あざっす」

「やだやだ~リョウ君ってば!」

沙織がけらけら笑って、リョウ君の腕を叩いている。

(どういうつもり……何を考えているの?……)

真意がわからず、困惑する。

「鞠香さん?」

「……ん?」

「どうしたんですか? 全然しゃべらないけど……あ、もしかして、俺のこと狙ってました?」

「なんでよ」

思わず語気が荒くなった。

「そーだよ~鞠香は、家事だってなんだって完璧にこなす主婦の鑑なんだから~」

沙織が胸を張り、鞠香は胸がぎゅっとなる。

「わかってますって。でも、今、けっこー主婦の不倫って流行ってますよね? 鞠香さんに限ってないとは思いますけど、もしそーいうの発覚したらどうします?」

心臓を突き破りそうな動悸……。

雄一が、その言葉に笑顔で答えた。

「鞠香は、万が一でもそんなことはしないよ。
でも、もしそんなことになっても、離婚はしないかな」

グラスを持つ手が、テーブルの上でわずかに空中に浮いたまま、静止していた。
無意識に。



心が茨で覆われていく、そんな気がしていた。

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