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二重生活
第4章 初めて
チョコレート色のシックな木の壁に、大きなガラス窓。
石タイルの階段を上がって扉を開くと、ふわりとハーブのいい香りに包まれた。
クラシックモダンなイギリスアンティークの、上品で落ち着いた素敵な店内。
暖炉で薪がはぜる音が、耳に心地よかった。 

彗君が連れてきてくれたのは、意外にも、ハーブティーが飲めるサロンのようなお店だった。

二人は、暖炉の前のゆったりとしたソファ席に通された。
テーブルにはオールドローズが飾られ、優雅な香りを放っていた。

そして、薔薇の香りのするおしぼりと、ゴブレットに入ったハーブウォーターが運ばれてきた。

お酒を少し飲みすぎた鞠香にとって、それはとても心に沁みるものだった。

「さっきもし、どこに行きたいかって聞かれて、このお店を知っていたらここって言ったと思う」

「そか、よかった」

彗君は、鞠香を見て優しく微笑んだ。

隣の席でさっきよりずっと近くにいるけど、それがごく自然に思えるほど居心地がいいのは、お店の雰囲気なのか彗君だからなのか……どちらだろう。

沈黙すら、全然気にはならなかった。

「一人でゆっくり過ごしたいときに、ここに来るんだよね。深夜に癒される場所ってなかなかないから、かなり気に入ってる」

一人で来るお気に入りの場所に連れてきてくれたんだ……。
嬉しくなってしまうけど、それは内緒にしておこう。
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