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二重生活
第4章 初めて
「そうかもね。私も眠れない夜なんかは、一人でホットミルクやハーブティーを飲んだりするもの。こういう時間は大事だよね」

「うん。……鞠香さん、寝れないことがあるの?」

「……ん、たまに、ある……かな」

「そうなんだ。俺がそばにいたら、二人で飲めるのにな」

なんだか心がぐずぐずに緩んでしまいそうになって、姿勢を正してメニューを手に取る。

「何がいいかなぁ。ぐっすり眠れて、明日元気にまた働けるように」

「じゃあ、お酒のあとにちょうどいいのにしよう。
俺も前に教えてもらったんだけど、肝臓がアルコールを分解するとき、かなりビタミンC使うから、ローズヒップティーを飲んでおくといいらしいよ。
気持ちが悪いときは整腸作用のあるペパーミントティー。
それから、ダンディライオンは肝臓の機能を高めるんだって。そのへんと何かで、おいしくブレンドしてもらおう」 

好きなもののことを話すとき、彗君は少し饒舌になる。
初めて知った彗君の新しい一面。
将来、どんなお店を作るんだろう。いろいろ話を聞いてみたいな。

そう思いながらメニューをめくっていると、

「え、ジンジャーとオリーブオイルのシフォン、
バラとクリームチーズのレアチーズケーキ、
ハニーのアイスクリームだって!
……彗君、食べたことある? めちゃめちゃ気になる」

デザートもとてもおいしそうで、飲み物も豊富だった。
メニュー一つ一つに大騒ぎしている鞠香を、彗君は笑って見ていた。

「鞠香さん、メニューを見るの好きだね」

「うん! 大好き」

振り向くと、すごく近いところに彗君の顔があって、慌てて少し離れた。

「ちょっとそういうの、至近距離でそんなキラキラした笑顔で言わないで」

彗君の顔が赤く見えるのは、暖炉の火やアルコールのせいではなさそうで。
形よく結ばれた唇に、意識が集中してしまう。

「……ごめんなさい」

鞠香ははずかしくなって、なぜだか謝った。
   
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