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二重生活
第5章 上書き
そのまま、スタッフルームに向かった。

はだけた胸元、乱れた髪、涙に濡れた目……。
こんな顔じゃフロアに出られない。
彗君にこんな顔見られたくない……。

ドアを開けると、

(どうして……)

一番会いたくない彗君がそこにいた。


「どうしたの……?」

震える声で聞くと、

「POSの電池切れて取りに来た……ってか、どうしたのは鞠香さんだよ! 何があったの?」

新しい涙が、あとからあとから溢れ出る。

「あいつらに、なんか……されたの?」

怒りを孕んだ声に、思わず腕にすがった。

「待って。話すから待って。騒ぎにしたくないの……」

「わかった。でも、どこで何されたのか教えて……」

「女子トイレで……もう席に戻ったかもしれないけど……」

「見てくる。少しだけ待ってて。冷静に対応するから」

彗君はコートをかけてくれた。
彗君の香り……。鞠香はコートごとぎゅっと自分の体を抱き締めた。
本当に怖かった。心のなかでずっと、彗君に助けてって叫んでた……。
顔を見られたくなかったけど、顔を見れて、心からほっとしたんだ……。


しばらくして、スタッフルームのドアが開いた。


「鞠香さん」

走りよってきた彗君の胸に、強く引き寄せられた。

「震えてるの? もう大丈夫だよ……」

コートをとってもう一度、直接思いきり抱き締められた。背中や二の腕をさすってくれる優しい手のひら。
だんだんと震えが止まっていく。

「トイレで潰れてた。かなり泥酔してたらしい。友達に引き渡して、みんなかなり酔ってたし、ランチタイム終わりっていって帰ってもらったよ。もう大丈夫」

「うん……」

「何されたの? 言いたくない?」

優しい声が降ってくる。鞠香は胸に顔を埋めて、深呼吸すると話しはじめた。

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