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二重生活
第6章 義務と演技
ようやく解放されて、身仕度を始める。

お化粧もそこそこに、髪を後ろで結わえた。

「今夜温泉に一泊して、明日ゴルフしてから帰るから。お土産買ってくるからな」

「うん。ありがとう。気を付けてね」

「鞠香も」

「はい。行ってきます」

見送られる不自然さに、喉がからからになっているのを感じていた。


広い玄関には、シューズインクローゼットが設けられている。
そこには、ルブタンや、マノロ、ジミーチュウ……
雄一がクリスマスや誕生日に買ってくれた靴たちがすまして並んでいた。
高級なものがいいものだと信じて疑わない雄一。

それは、もしかしたら正しいことなのかもしれないけど、鞠香は履き心地のいいペタンコ靴やスニーカーも大好きだった。

だけど……だけど今日は、雄一が買ってくれたルブタンで行こう……。



エレベーターは、いつも、音もなく迅速に鞠香を地上へ届けてくれる。
2層吹き抜けになった、広がりのあるエントランス。
開放的でありながらも凛とした緊張感が漂い、アートや生花がそこかしこを彩っている。
その独特な雰囲気に、鞠香は未だ慣れずにいる。

「わ……」

外へ出ると空が眩しくて、思わず手をかざした。

空を埋める厚ぼったい雲の隙間から射す光。

今日は曇りで寒いと天気予報は伝えていたけど、温もりを感じる。

外へ出てみないと、その日の天気は本当にはわからないものだと思った。
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