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二重生活
第7章 rose
「そうだ! ケーキ食べよっか」

涙が止まるまで黙って手を握ってくれていた彗君は、明るく言って、冷蔵庫からケーキを取り出した。

「俺もこれ食べるの初めてなんだ」

「そうなの?」

「うん。けっこう通ってるけど、いつもハーブティーかコーヒー飲んでるだけだから」

「そうだったんだ。でも、彗君とコーヒーって似合うなぁって、お店でいつも思ってたよ。彗君が淹れたコーヒーも飲んでみたいな」

「いつでもいいよ。もちろん、鞠香さん専門のミルクティもずっと、お作りしますよ」

「ふふ。ありがとう。光栄です。
今日はどうしよっか。何が合うかなぁ。やっぱりローズヒップ? でも、普通にダージリンとかもいいよね」

ワクワクしながら言う鞠香を、優しく見つめながら、

「やっと笑ってくれた。
俺、鞠香さんが好きなもの、好きなんだ。
それって、俺が好きなものも鞠香さんも好きってことだよね?
だからかわかんないけど、鞠香さんといると、なんかしっくりくる」

ケーキを取り分けながら、彗君が言った。



鞠香も、そう思っていた。

彗君といると、しっくりくる。

好きなものが同じ、波長が同じ。

男の子なのに、女友達といるときみたいな話ができて、心から笑えて……。

昔から知っているみたいな安心感があるのに、出逢った瞬間のときめきは色褪せることなく、鞠香の胸を高鳴らせ続けている。
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