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二重生活
第9章 fall in love
「……彗君……!」


涙が自然とこぼれ落ちた。

人をかき分け走りよってきた彗君に、強く抱きしめられた。

「心配でずっと探してた……。リョウに何されたの……」

低く抑えた声は、鞠香以上に掠れていて。

(どうしていつも、彗君は……)

もう、心配はかけたくないのに……。

「大丈夫……。大丈夫……」

そう言うしかない鞠香に、

「帰ろう」

強い眼差しで彗君は言った。

「え?」

「荷物全部持ってきた。みんなかなり酔ってるし帰った人もいるし……」



もう、ここにはいさせたくない、彗君の言葉に心が裸になる。



「うん。もう……ここにいたくない……」



午前中よりさらに賑やかになった公園を出たら、少しだけ緊張が解ける。

「ありがとね」表参道のほうへ向かおうとすると、手を強く握って引き寄せられた。

「鞠香さんもこっち」

手を引かれて改札を通る。
ずっと無言の彗君。どこへいくの?何か言って……。


しばらく山手線に揺られ、降りたのは新大久保だった。

「うち行こう。俺、嫉妬と独占欲でおかしくなりそー……」

漆黒の綺麗な瞳が揺れていた。

(私も、家には帰りたくない……。一緒にいてほしい……)

鞠香は、ぎゅっと手を握り返した。
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