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二重生活
第12章 cherry blossom
スーパーでお酒とつまみを買って、神田川沿いを歩く。

宴会の残骸が残る人気のない遊歩道には、静謐な雰囲気が漂っていた。
仰ぎ見れば、街灯に照らされて闇に浮かび上がる桜の花の輪郭。

昼間に見たホアホアと甘い綿菓子のような桜とは違い、妖艶で高貴な桜の姿だった。

まっすぐ続く道を手を繋いで歩きながら、ふと、前に一度こんな気持ちで歩いたことがあると思った。

あれは、いつだっただろうか……。

「鞠香さん! ちょっと来て。こっから見ると綺麗だよ」

珍しくはしゃいだ声に誘われて、橋の欄干から景色を眺める。

川面に映る光と桜。

「ね? なんか、二度美味しい感じ」

「ほんとだ……綺麗……」

うっとりと見惚れていると、カシャ……シャッター音がして、笑顔の彗君が「すごいの、撮れた」と、ケータイの画面を向けた。

桜並木を背景に、髪をなびかせて佇む鞠香の姿。

「桜より綺麗だったから。せっかくだし、一緒に撮ろっか」

肩を抱き寄せ、シャッターがきられる。

その音は、二人の時間が、確かに始まったことを決定づけるように響いた。

時は流れていく。川のように、前へ、先へ、未来へ。
そして、止めることができないのは、気持ちも同じだった。

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