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二重生活
第12章 cherry blossom
両岸から枝を広げる桜の木は、お互いが手を伸ばしあっているように見えた。

あの枝たちは、もし触れあうことができたら絡み合うのだろうか……。
そんなことをぼんやり考えていると、大きな手のひらが指先を包んだ。

「手、冷たい」

もう片方の手も一緒に、吹きかけられた吐息。
じんわりと温もりが沁みていく。

「ありがとう。あったかいよ」

「ん」

満足そうに笑って、手を繋いでまた歩き出す。
その後ろ姿は、もう誰とも見間違えないほど完璧に目に焼き付いていた。
すらりと背の高い、均整のとれた美しい骨格。
ふくらはぎに浮かぶ筋肉の筋も、引き締まったお尻も、しなやかな背中も、すべて知ってしまった。

この背中についていけば、何も怖くない……絶対的な信頼を寄せてしまいそうになる……。




鞠香は思い出す。
まっすぐ続く道を、こんな気持ちで歩いた日のことを……。


そう、あれは、バージンロードだった。


耳にこだまする、讃美歌312番のメロディ。


慈しみ深き 友なるイエスは
罪 咎 憂いを 取り去りたもう
心の嘆きを 包まず述べて
などかは下さぬ 負える重荷を




私が犯した罪は


許されることはない。決して。


それでも、この手を離すことなんてきっとできない……。

ぎゅっと握ると、強く握り返される手。

もう少しだけ……
この幸せを噛み締めていたい。

彗君を、見つめていたい。
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