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乳牛メイドのホルスタイン あの、かけがえのない日々のこと
第8章 第7話 最期の願い
「30さいの、たんじょうびに……」
「……」
「ぼくが、なまえをよんだら……」
「坊ちゃま、分かりました。もう、大丈夫ですから……」

 同じことは以前にも坊ちゃまから聞かされていた。

 坊ちゃまは既に意識がもうろうとしていて、私に何度も同じことを話してしまう。


 それでもいい。それでも坊ちゃまの言葉を聞けるだけで私は嬉しい。

 だけど、だけど……


「……帰りましょう。私たちの家に。2人だけの家に……」
「うん……」

 私はもはや流れる涙を抑えることもできずに、そのまま車椅子を押して帰路に就いた。

 坊ちゃまが車椅子から落ちないように、私は涙を坂道にこぼれ落としながら慎重に車椅子を押していった。


 沈む夕日を背に下りる坂道は天の国に背く逃げ道のようにも、あの世へと続く階段のようにも思えた。
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