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路地裏文化研究会
第6章 広がる妄想
 「さあさあ、おでんにはビールもいいけどお酒も行きませんか? さあ、どうぞ」

 山田さんがお猪口を持たせてお酒を注いでくれました。一口頂きます。

 「美味しい…」
 「どうかな? 五臓六腑にしみわたるでしょう? おっと、五臓六腑なんて、お嬢さんには似合わぬたとえだが、この酒はまさにそんな味わいなんだよね」
 「しみてきますね…。なんていうお酒なんですか?」

 吉川さんが一升瓶を抱えてラベルをわたしの方に向けてくれました。毛筆で流れるような…いわゆる達筆で銘柄が書かれています。

 『深処乃雫 無濾過生原酒』

 「ふか…み…の…しずく…む…ろか…なま…げんしゅ…ですか?」
 「ふむ…!」

 村井さんが唸りました。

 「そう、”ふかみのしずく””。初見で正確に読むとは。しかも読み方まで完璧に。大したものだ。ささ、もう一杯。女神様に相応しいお酒を」

 注いでいただいたもう一杯の喉越しを感じたとき、わたしは急に、下半身が熱くなるのを感じました。下半身…いえ、正直に言えば、おへその下…からだの奥…。今、身に付けている下着が、新品であることを意識しました。そして、新品をおろした理由が脳裏によみがえったのでした。このお酒を、わたしのからだの隅々まで染みわたらせたい…そう思いました。

 「美味しいですね…。もう一杯、いただいてもいいですか…」
 
 わたしは両手でお猪口を差し出していました。

 「ええ、もちろん。美味しいでしょう? うれしいね、このお酒の美味さをわかってくれるとは」

 山田さんがすぐにお酒を注いでくれました。

 「女神様、いい貌してるなぁ。一枚いいかな?」

 いつの間にか吉川さんがカメラを構えていました。

 「いいんですか? お化粧もろくにしていないのに…」

 カメラなど向けられたら真っ先に逃げ出すわたしなのですが、わたしも視線を返しながら、シャッターが切られる音を聞いていました。ちょっと酔っていたせいもあったのかと思います。

 「お化粧なんかしてなくていいんだよ。十分、綺麗だよ。綺麗な女神様だよ」

 今まで”綺麗”だなんて言われたことがあったでしょうか。自分が女神様だと思ったわけではありませんが、急に着ているものが天の羽衣のように薄い生地でできているような気がしました。
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