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夜空に煌めくアラベスク
第7章 天秤座の女

こんなにも至近距離で見つめられた経験のない史子は、慌てて視線を逸らした。

「今夜はゆっくりと飲み明かしましょうか」

そう言ってさりげなくエスコートするように背に大きな手を添えられて、史子は年甲斐もなくドキドキした。

木ノ下敦…
実は史子と同期の社員だった。
だが、同期入社とはいえ、あちらは国立大学卒業のエリートで、あっという間に出世して、今では課長というポストを与えられて同期の中でも頭ひとつ飛び抜けていた。

そんな彼にタクシーに乗り込まされて連れていかれたのが彼の自宅マンションだった。

「えっ?ご自宅?そんな…奥さまにご迷惑だわ」

「誰にも話していないけど…僕と妻は協議離婚の真っ最中でね…
妻はとっくにこの部屋から出ていったよ」

そのように打ち明けられても、史子は「どうして離婚するの?」などと詮索をしようなどとは思わなかった。
自分だってこれまでに浮わついた話のひとつや二つはあったけれど、プライベートと会社勤めは別物だと、心の中にしまっていた。
おそらく彼もそのように他人に触れられたくないプライベートがあってもおかしくないと思ったからだ。

「さあ、どうぞ、今は一人住まいだから片付けもろくにしていなくて散らかっているけどね」

その部屋を見て史子は愕然とした。
『男やもめに蛆(うじ)がわく』ということわざがあるけれど、まったくその通りだと思った。
これでは落ち着いて酒など飲めるはずがない。
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