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シアター"名画座"で逢いましょう
第9章 独りだけの名画座

「あら?奥さん、この前も来てくれたわよね?」

マスクにサングラスで顔を隠しているにも関わらず、入場券売場の熟女は日菜子だと気づいて「リピーターさんになってくれるのかしら?だとしたら嬉しいわ」と千円札と引き換えに入場券を差し出してくれた。

『やだ…どうして私だとわかったのかしら…』

完璧な変装だと思っていたのに、意外とバレるものなのねと、ちょっぴりショックだった。

実は売場の澄子は変装している女性が日菜子だと気づいていたわけではなかった。
以前に嗅いだ香水と同じ臭いを記憶していたので適当に言ってみただけだった。

「ちょうど今から一本目が始まるところよ
さあさ、早く入ってくださいな」

自分では完璧だと思っていたのに、簡単に見破られたようで、日菜子はこのまま引き返して帰ろうかと思ったのだけれど、入場券売場の熟女が「さあさあ、早く入ってくださいな」と背中を押すものだから、帰るに帰れなくなり、仕方なく日菜子はシアターへの重い扉を開いてシアター内に足を踏み入れた。

前回と同じ席…

そう思って暗がりに慣れてきた目で座席を確認すると、そこにはすでに先客が陣取っていて、ターゲットを物色するかのようにスクリーンには目を向けず、客席をキョロキョロと眺めていた。

『端っこがダメなら真ん中へ…』

最後列の真ん中の席について、日菜子は劇場内の全体を見渡した。
上映中のために暗いものだから、日菜子が恋い焦がれている例の男性が来ているかどうかなんてわからなかった。

『とりあえず一本目が終われば休憩になるし、その時は前回のように会場内が薄明かるくなるから、その時に探してみようかしら』

今は暗くて人探しなんて出来るはずもない。
仕方なく日菜子は上映中の作品を楽しむことにした。
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