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シアター"名画座"で逢いましょう
第8章 清掃係の三智子
トイレに一歩足を踏み入れて、渋谷三智子は心臓が口から飛び出るのではないかと思うほどに驚いた。
「トイレの花子さん」という怪談があったけれど、まさしく誰もいないと思っていたトイレからすすり泣く声が聞こえてきたからだ。
『えっ?ウソっ!やだ!マジ?!』
一瞬、足がすくんでしまったけれど、その声はうらやましげな女のすすり泣きとは違い、低音の男のすすり泣きの声だったので、三智子は変だな?と思い、ドアが開きっぱなしの個室を思いきって覗いてみた。
そこには女性の幽霊ではなく、痩せ細ったサラリーマンだろう男がスラックスとパンツを膝下まで下ろし、便器を抱き抱えるようにして泣いていた。
居酒屋のトイレで、酔いつぶれて便器を抱きかかえて泥酔しているシーンを安っぽい映画ではよくあるパターンだが、いくら泣き上戸でもこれは普通ではないと気づく。
「ちょっとあんた!具合が悪いの?」
この状況を目の当たりにして放っておくことなど出来ない。
三智子は倒れこんでいるサラリーマンに近寄り声をかけた。
彼は顔を見られたくないのか、近づく三智子に背を向けた。お陰で見たくもない男の尻を見てしまう。
尻の谷間からうっすらと血が流れ出ていた。
いや、流れ出ているのは血だけではない。
茶色いトイレの個室の便器に垂れ落ちるはずであろうモノさえ確認できた。
「とにかくさ、あんたこんなところに座り込んでちゃいけないわ」
まずは汚れた下半身を拭いてあげないと…
三智子は自前のタオルを水道水で浸すと、固く絞って彼の汚れた下半身を拭き始めた。

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