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愛する男と人妻美香の秘め事
第35章 熊本旅行・終焉(3)
彼は私の肩を抱き、さっと体を引き寄せて唇を重ねてきた。歯間を通して入ってきた舌先に私の舌も絡める。昨夜は唇と唇との間に唾液の糸を引くほど激しいキスを繰り返したけど、ほんの短いキスだった。

離れ部屋を後にし、母屋へ続く廊下を歩く。隣部屋の美女の泊まってた部屋は、もう既に掃除が始まっていた。彼には、結局、黒髪の美女のことは言わなかった。

「また、お会いできたらいいですね」と言った彼女の言葉を旅の思い出として胸の中に大事にしまいこんだ。

中居さん、そして女将さんに玄関で深々とお辞儀をされながら、旅館を後にした。
私は宮崎監督映画のある主人公と違って、旅館に向かって何度も振り返りながら歩く。そして、映画と違って主人公の記憶がなくなるのではなく、昨日のことは私の人生の一ページに深く刻まれて消えないものとなるでしょう。

いご坂、川端通りを歩き、駐車場に着いた。車に乗り込むと、「本当によかったね、黒川温泉、最高」と呟く彼にまたキスをされた。うん、と小さく頷きながら彼の胸に私は頭を埋めていた。

車は阿蘇方面へと走り始めた。黒川温泉に来るときの情景を撮影した映画を逆再生するように、山の木々の色が赤黄から緑へと変わっていく。

車の中には、温泉に向かう時と同じく、甘いサックスの音色が奏でるジャズが流れている。

「これ誰の曲っていってたっけ?」

「ケニーGだよ。美香にも一度、CD貸したことあるだろ?」

「ああ、そうそう、思い出した。ケニーね」

そういえば、Iくんから借りたケニーGのアルバムCD。でも、ジャズにはあんまり興味ないから、聞いてすぐに返したことを今さらながら思い出した。ジャズ好きの彼はまたジャズの奥深さについて語り始めたが、あまり興味のない話なので、まっすぐ前を見ながら、ふーん、へえ、そうなの、とひたすら軽いだけの相槌を打つ。

小国から阿蘇へと景色を変えながら車は進み、大阪に帰る前に立ち寄ろうね、と前から予定していた草千里に着いた。
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