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愛する男と人妻美香の秘め事
第36章 熊本旅行・終焉(4)
車を降りると、大観峰で遠くに見えた阿蘇山の中岳が間近に見える。そして、緑のただただ広い緑の絨毯が広がり、放牧馬が緑の中で茶色の点のように見える。

「今日は大丈夫な日だよ」

「何が大丈夫なの?」

「ほらあの左に見える山、噴煙が出てないでしょ。ここに来れるかどうか、今朝、ネットで調べたんだ。噴火したら、ここは立ち入り禁止になるからさ」

「へえ、阿蘇山って噴火することってあるの?」

「美香さん、君は何も知らないんですね。阿蘇山は日本でも数少ない活火山ですよ」

彼が私に丁寧語を使うときは決まって、私を笑いものにするときなの。案の定、私の顔を見つめながら半笑いしているし。

昨日、少し雨が降ったのか、緑の絨毯はしっとりと濡れ、踏むとムワっという感触が伝わってくる。ところどころに小さな水たまりが出来ていて、私のスニーカーの底から弾かれる小さな土塊が水たまりの中に落ち、そこに小さな輪っかを作り、その輪はすぐに消えていく。曇天だった空は少しだけ青みの部分を見せ始め、雲の隙間から漏れる木漏れ日が私の頬を優しく温めてくれた。

「美香、あそこに見える山の下まで歩こうか?」

「ええ、結構、遠いわよ。地面もなんか濡れてるし・・靴が汚れちゃうから私はいいわ」

「じゃあ、行ってくるけど、その間は美香は何するの?ほら、あそこに馬が見えるでしょ。馬にでも乗ってみるかい?」

「いや、いいわよ。この辺りで待ってるから、Iくんだけで行って来たら」

まったく、子供じゃないんだから馬になんて・・と思う私は恥ずかしがりやの子供のように肩をすぼめている。その仕草を見て、彼はまた目じりに皺をよせて、今度は優しく微笑んでくれた。

冷たい風のせいで赤らんだ私の頬を触り、「じゃあ、行ってくるよ」と言い残し、彼は早歩きどころか、なんと走り始めた。

走るの、と半分驚きながら、彼の遠ざかっていく背中を見つめる。
お願いだから転ばないでよ、と思いながら芝生を離れ散策道に腰を下ろす。
彼は途中にある大きな池の横で立ち止まり、しばらくその場所に立っていた。そして、また目的の小山へ向かって走り始めた。

(しばらく帰ってきそうにないわね)
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