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愛する男と人妻美香の秘め事
第38章 熊本旅行・終焉(6)
牧歌的な原風景が広がる壮大な景色を見つめながら、ふと思う。
(人間って本当にちっぽけな存在なのね。自然の中にいると、小さな悩みなんてどうでもよくなりそう)

でも、現実には人間は小さなことで悩んでしまう生き物なのです。

主人との新婚旅行で行ったグランドキャニオンでも同じこと思ったな~、ってことを思い出しながら、私の中の思考がついつい家庭のことと結びついてしまった。

「友達との旅行、楽しんで来いよ」と駅の改札口で言われ、改札口を抜けた私に、
「いってらっしゃい」って手を振りながら声をかけてくれた。

私は「いってらっしゃい」という言葉の中に潜む温かさが大好き。毎朝、仕事に向かう主人に何千回と言い続けた言葉。逆に言われると、その言葉はまるで幸せの言霊のように私の心をほんのりと温かくした。

(今仕事中だから連絡はやめとこ・・それにしても昨晩はご飯ちゃんと食べたかな?)
主人のことが気になったが、今はいいわ、とラインのアプリを閉じた。

行ったきりIくんは中々帰ってこないし、パート先からのラインも引っ切り無しに入ってくる。
グループラインだから仕方ないか、と思いつつ、パート先からのラインは未読スルーする。

私はいきなり団子とカップに入ったブレンドコーヒーを用意して、甘いお菓子を頬張りながら熱いコーヒーを手に取った。外気で冷たくなった指先にカップから熱が伝わってくる。コーヒーのカップを半分だけ開けると、冷たい風の中に湯気が立ち、そこから漂う明確なコーヒーの蒸香が鼻腔を掠めた。コーヒーを一口すする。熱い、と思ったが、もう一口だけすすると、さっきまで口の中にあった甘味を打ち消すように、じわっと酸味のある苦みが口内を支配した。

飲み込んだコーヒーで胃袋の底がじわっと暖かくなると、ほんの少しだけ体が温まった気がした。

コーヒーが半分ほど無くなると、私は冷めたコーヒーを傍らに置いて、晴れ間の覗く空を仰いだ時、ポケットの中のスマホがバイブした。

「今、どこにいるの、美香」とのライン。

「もと居た場所に座ってる。早く来て」。

直ぐに頭の上で輪っかを作ったスタンプが送られてきた。
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