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壊滅の刻
第8章 鎌倉
だから、麻美は、コクッて来た和弥に

「渋谷駅の改札口を出るまでは離れて」

と、条件を付けた。和弥もそれはわかっていた。お互いに『退学』は避けたい。

麻美と和弥は、中学受験の四谷大塚の渋谷校舎で知り合った。同じ渋谷区民で、家も近く、何かと顔をあわせることが多かった。

中学受験のときは、それこそ受験勉強に明け暮れ、恋愛感情なんてなかった。お互いに気にもなっていたかどうか。

それが靖国神社の境内ですれ違った瞬間、麻美を先に見つけた和弥が、

「久しぶり」

と、声を掛けた。振り返った麻美を見て、和弥は、見知ったはずの顔なのに、ドキッとした。面影はあったが、視線も表情も女性らしくなっていた麻美に驚いた。

麻美も、聞き覚えのある声に振り返って、目の前に立っていた和弥を見て、驚いた。顔はそんなに変わっていない。声すらも変わっていない。でも、背が違った。そして、精悍な体格になっていた。小さくてひょろひょろだった和弥が、大きくなって、逞しくなっていた。

家も近く。学校も近い。中学三年間、出会ってもおかしくなかったのに、なぜか顔をあわせることはなく、高校に入ってからの再会。3年半の空白。その時間がお互いを変えていた。

女らしくなった麻美。男らしくなった和弥。

幼児体形で目ばかり大きかった麻美。

小さくてオドオドして、母親の顔色ばかり見ていた和弥。

それが、スラっと背が伸びて、胸も膨らみ、尻も大きくなって女性らしい体形になった麻美。

同じく、背が伸びて、筋肉質な身体になって逞しくなった和弥。

それでも、お互いに顔を見ただけで思い出せた。

でも、四谷大塚で一緒に勉強していた頃は気になったことはお互いになかった。

それが、なぜか、こうなった。

そもそも、近くの女子校と男子校に進学した時点で、それが伏線だったのかもしれない。

そんな麻美は今、鎌倉の祖父の家にいる。

和弥がどこで何をしているかはわからない。電気がない。停電したまま電気のない生活。

南平台町の家にいたほうが良かったのかもしれない。少なくとも、バッテリーがあった。父が購入していたバッテリー。あと、太陽光パネルも。

でも、ここには、それがない。スマートフォンの電源残量はゼロ。

電源がなくなるまでは、和弥とLINEでやり取りができた。でも、もう無理。
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