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壊滅の刻
第9章 和弥
今が昼なのか夜なのか、わからない…。

空は星どころか何も見えない。見えるのは黒い雲。そして、そこから降るのは、黒い雨。

「原爆投下の後の黒い雨って、こんな感じだったのかしら」

麻美は不謹慎なことを考えていた。しかし、原爆投下と同じかそれ以上の惨劇が始まっていた。

暗闇と泥濘の中で蠢く人々。原始時代より酷い有様。電気とガスに頼っていた生活。その両方が同時に使えなくなると、時代は、原始時代に遡っていた。しかし、違ったのは、人間が劣化していたことだった。

旧石器時代より器具は進んでいた。黒曜石の代わりに包丁があったが、それだけのことだった。

人間の体力は旧石器時代の人類に比してあまりにも劣化していた。充電池の電池が無くなるまでに、現状を打開するしかない。

でも、分断された家族。

南平台町の状況はわかった。小さな庭は真っ黒に火山灰に覆われ、向かいの新築の住友林業の家は倒壊し、隣の旭化成ホームズの家は外壁が真っ黒になりながらも建っていたが、屋上に設置された太陽光パネルは見えないほどに火山灰が積もっていた。

70歳代の祖父母と一緒の麻美。曽祖父が生きていれば…。太平洋戦争でガダルカナル島から生きて帰ってきた曽祖父なら、こんな状況をどうしたのだろう?そんなことを考えながら、火山灰の重さで軋む祖父母の家の仏壇に置かれた曽祖父の位牌を見つめていた麻美。

その時、バラバラという火山灰を含んだ雨が降り出した。これ以上、屋根の上の火山灰が水分を含んだら危ない。それは麻美にもわかった。どうしよう?と祖父母のいる居間に寝間に祖父母を起こしに行こうとした麻美のところに、祖父が駆け込んできた。

「和弥という男の子が訪ねてきたんだが」

麻美の顔を見るなり祖父が叫んだ。和弥が???LINEの日から5日。約45㎞…。この火山灰の泥濘に覆われた道を…。自分が隣の家に充電をさせてもらい行っただけでも、倒れ込むほど疲れるのに…。

「友達」

麻美はそう言って、玄関に急いだ。真っ暗な廊下。線香の明かりを頼りに曲がって、玄関に出た。三和土の上に立つ男の姿があった。顔も全身も真っ黒。火山灰を被っている。

「麻美」

それだけを言って、立っていた和弥が倒れこんだ。

「和弥」

麻美が駆け寄った。今まで、お互いのことを名前の呼び合う関係ではなかった。
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