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想いあふれて
第3章 濡れたシャツ、肌の熱
りつかは、
不意に浮かんだそのほほえみに吸い込まれるように、
一瞬男性に見とれた。

それからあわてて、
男性にタオルを渡した。

「ありがとう・・・じゃあ、ホットコーヒーを」

男性は言ってカウンターそばのテーブル席に座った。

年齢はりつかより三、四歳ほど若いだろうか。

三十代後半くらいの落ち着きがあるが、
生活感を感じない佇まいからは
若々しさが滲む。

いつもは海が見渡せるテラス側の窓に、
灰色に光る雨水が、
マーブル模様を描いて流れ落ちるのを、
力ない様子で眺めている。



りつかは熱いコーヒーをテーブルに置き、
男にそっと声をかけた。

「ウイークエンドを目的に来てくださったんですね。
それなのに、申し訳ありません。
お好きなんですか」

りつかの問いに、
男はうなずいてりつかを見上げ、微笑んだ。

「僕の大叔母も大好物で」

聞けば、彼は小さなころから、
祖母とその姉妹と同居していたという。

ここ二年の間に祖母とその姉が立て続けに他界し、
介護施設に入所している祖母の妹が、
ウイーンエンドを所望しているのだという。

現在彼は、
祖母とその姉妹たちがいなくなった東京の大きな家で、
一人で暮らしているのだと話してくれた。

彼の物腰やわらかな仕草や、
やさしい話し方は、
年齢が高い女性たちに囲まれて育った環境からくるのかもしれない、

そう、りつかは思った。


まるで
女友達と話しているような安心感と近しさがある。



ひとしきり会話を終えて、
りつかはカウンターの中に下がった。

窓の外の雨風の激しさとは裏腹に、
柔らかく穏やかな雰囲気が、彼との間に流れる。



ゴロゴロゴロ、と、
天井が崩れ落ちてくるような轟音が、
その雰囲気を打ち破った。
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