この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
想いあふれて
第7章 終章ー風と光、開く花
何かを察した様子で、信忠と紫苑が黙った。
長身の啓は、仕事用のシャツにスーツのスラックス姿で、袖をめくり上げている。腕時計は嵌めていなかった。昼間セットしていたと思われるワックスに濡れた前髪が一筋、乱れて額に落ちている。繊細な顔立ちの啓が、りつかが愛していた頃と変わらない姿でそこに佇んでいた。
りつかはしばらく啓を見つめていた。啓を見つめているというより、りつかをかつて襲ったあの非常階段での出来事の記憶がリプレイし、その過去の映像に、目を奪われていた。唇が微かに震え、あの時もよおした猛烈な吐き気までもが蘇った。
りつかのただならぬ様子を見て取った信忠は、とっさに啓を追い出そうと立ち上がった。
「悪いけど今日は休みなんで」
突然現れたりつかの元恋人を受け入れまいとするかのように、信忠はあえて啓を“客”として扱った。
啓は信忠に目もくれず、じっと、りつかを見つめている。溢れ出しそうないくつもの言葉を選んでいるかのように瞳をかすかに揺らして、唇をかすかに開き、再び閉じた。
「ごめんなさい。二人で話したいから」
りつかは言って、信忠を見上げたあと、紫苑に向かってゆっくりと頷いて見せた。
長身の啓は、仕事用のシャツにスーツのスラックス姿で、袖をめくり上げている。腕時計は嵌めていなかった。昼間セットしていたと思われるワックスに濡れた前髪が一筋、乱れて額に落ちている。繊細な顔立ちの啓が、りつかが愛していた頃と変わらない姿でそこに佇んでいた。
りつかはしばらく啓を見つめていた。啓を見つめているというより、りつかをかつて襲ったあの非常階段での出来事の記憶がリプレイし、その過去の映像に、目を奪われていた。唇が微かに震え、あの時もよおした猛烈な吐き気までもが蘇った。
りつかのただならぬ様子を見て取った信忠は、とっさに啓を追い出そうと立ち上がった。
「悪いけど今日は休みなんで」
突然現れたりつかの元恋人を受け入れまいとするかのように、信忠はあえて啓を“客”として扱った。
啓は信忠に目もくれず、じっと、りつかを見つめている。溢れ出しそうないくつもの言葉を選んでいるかのように瞳をかすかに揺らして、唇をかすかに開き、再び閉じた。
「ごめんなさい。二人で話したいから」
りつかは言って、信忠を見上げたあと、紫苑に向かってゆっくりと頷いて見せた。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


