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想いあふれて
第7章 終章ー風と光、開く花
かつてのときめきが蘇る予感がしたが、その予感は冷ややかな感覚の中に溶けて消える。
首元から滲む嗅ぎ慣れた香りが、鼻腔に染み渡るように広がっていく。けどそこには、愛着や懐かしさはなかった。ただ、過去に触れたことのある感覚を、たまたま再び味わった、そんな感じだった。
啓の袖口からは、今まで嗅いだこともない別の香りも漂っている。その香りはすでにりつかと啓が全く違う道を歩き始めていることをりつかに教えているようだった。
「啓、家を飛び出してきたんでしょう。多分、啓は今疲れ果てている。それで、衝動的に私のところに来た。きっとそれだけの事」
りつかは啓の腕の中で囁きかけた。啓は今にも逃げていきそうな何かを押しとどめるかのようにりつかを抱く腕に力を籠め、甘く唇を耳たぶに這わせて囁き返した。
「俺は、ひたすらりつかのことだけを考えて、車を走らせてここまでたどり着いた。なのに、この俺の想いを ―それだけ― で片付けるのか。なありつか・・・お前は、そんな冷たいことを言う女じゃなかっただろ」
りつかは目を閉じた。かつては自分を昂らせたその啓の吐息が、今は肌を掠めていく秋風のように味気ない。抱擁を拒まないりつかを腕に抱いたまま、啓のささやきが場違いに甘くなった。
「こんな辺鄙な場所まで自分を追い込んだりして・・・バカだな、りつかは。自棄になるなよ」
そこでりつかはやっと、啓の腕から体を外した。そっとつかんだ啓の腕の、まくった袖のシミを見つけ、りつかは啓自身に見えるようにその腕をそっと掲げた。
首元から滲む嗅ぎ慣れた香りが、鼻腔に染み渡るように広がっていく。けどそこには、愛着や懐かしさはなかった。ただ、過去に触れたことのある感覚を、たまたま再び味わった、そんな感じだった。
啓の袖口からは、今まで嗅いだこともない別の香りも漂っている。その香りはすでにりつかと啓が全く違う道を歩き始めていることをりつかに教えているようだった。
「啓、家を飛び出してきたんでしょう。多分、啓は今疲れ果てている。それで、衝動的に私のところに来た。きっとそれだけの事」
りつかは啓の腕の中で囁きかけた。啓は今にも逃げていきそうな何かを押しとどめるかのようにりつかを抱く腕に力を籠め、甘く唇を耳たぶに這わせて囁き返した。
「俺は、ひたすらりつかのことだけを考えて、車を走らせてここまでたどり着いた。なのに、この俺の想いを ―それだけ― で片付けるのか。なありつか・・・お前は、そんな冷たいことを言う女じゃなかっただろ」
りつかは目を閉じた。かつては自分を昂らせたその啓の吐息が、今は肌を掠めていく秋風のように味気ない。抱擁を拒まないりつかを腕に抱いたまま、啓のささやきが場違いに甘くなった。
「こんな辺鄙な場所まで自分を追い込んだりして・・・バカだな、りつかは。自棄になるなよ」
そこでりつかはやっと、啓の腕から体を外した。そっとつかんだ啓の腕の、まくった袖のシミを見つけ、りつかは啓自身に見えるようにその腕をそっと掲げた。

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