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二重の指輪、ひとつの欲望
第21章 艶(1)
午前11時前。

静寂に包まれた閑静な邸宅の中で、私は鏡に向かって薄紅のチークを差し、キスをしても落ちないリップで唇の表層を軽やかに染め上げる。化粧鏡に映る自分の顔を見ながら、愛しい彼がやって来るのを、今か今かと待ちわびている。

世間の目には、私は真面目で立派な医師の妻として映り、職場では日々患者に優しく微笑みかける清楚な薬剤師と思われている。

でもね・・パリッとした白衣の下に隠された本当の私は、職場の同僚も、そして夫すらも知らない、果てのないアブノーマルな欲望に完全に支配された淫らな女なのよ。ふふっ、と思い出し笑いをすると、口元から熱い吐息が漏れてしまう。

ふと考えた。私の奥底で疼く、アブノーマルなセックスへの異常なまでの欲求が強くなったのは、一体いつからだったのかしら、と。 アナルセックスはアブノーマル? ええ、間違いなくそうだと思うわ。じゃあ、身体を縛り上げるようなソフトSMは? それがアブノーマルかどうかなんて、もう私にはわからない。

思い返せば、M女子大生の時に付き合っていた彼に強引に開拓されて、初めてアナルを経験したのが始まりだった。最初はただの興味本位で、痛いだけだし、すぐに止めるだろうと軽い感覚だった。けれど、彼に幾度となく執拗に開発され続けるうちに、いつしかアナルは私にとって第二の快楽の淫穴へと変わった。

Iくんはいつもお昼前の決まった時間に私の家へやって来て、3時間ほど私の身体を楽しみ、満足した後に帰っていく。彼に抱かれる時間。夫の気配が染み付いたこの部屋で他の男の匂いを招き入れる行為は、甘美な背徳感と陶酔をもたらす。

「いけない」と知るほどに、肌は熱を帯び、背徳という名の劇薬は、ただの愛撫を濃厚な密事へと変えていく。彼の指先が肌をなぞるたび、燻っていた罪悪感は霧散していき、枷の外れた乾いた体が潤いを求め、私をどうしようもない淫乱な女へと豹変させていく。

お互いの性器を溶かしあう愛撫。二つの身体が境界を失い、最も深い場所で結合した瞬間、私を支配していた「理性のブレーキ」が、一瞬で粉々に吹き飛ぶ。

平日の昼下がりに帰宅したことのない夫。そして、自宅に設置されたセコムが、逆に夫自身の目を盗み、密会を成立させる『絶対の盾』へと成り下がっている。

今日も、私は日常なら決して見せない淫乱な痴女へと変わっていく。
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