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監禁願望の女
第5章 牢
弥生の意識に、男が目の前へ掲げた一枚の紙が浮かんだ。
まさか、誓約書まで交わすことになるとは思っていなかった。誓約書の最初には、『私、○○は――』と書かれていた。その空白へ自分の名前を当てはめ、坪井弥生、二十七歳と、自らの声で読み上げた。
それまで匿名のまま隠していた願望を、自分の名前で認める文章だった。その全文を最後まで読み上げることで、弥生は男に自由を預けた。
その声は録音されていた。震えていた声も、途中で息を継いだ間も、すべて男のスマホに残っている。思い出すだけで、顔が熱くなった。
しかも男が合図を決めようと尋ねたとき、いらないと答えたのは自分だった。二つの条項を削除し、解放を求める言葉を口にしても、日曜日の夜まで続けてほしいと、自分から言い直した。どうして、あんなことを言えたのだろう。
あの時も怖かった。それでも車内には男がいて、自分の言葉を聞いていた。これから何かが始まるという緊張の中で、それを望んでいる自分を、男に知ってほしかったのかもしれない。
けれど今、男はいなかった。残されたのは、誓約書どおりに自由を失った自分だけだった。
弥生は乱れた息を整えようとした。大きく吸い込むことができず、短い息を何度も継いだ。
私で良かったのだろうか。その不安が、今になって胸の中へ浮かんだ。男は満足したのだろうか。久しぶりで余裕もなく、怖がってばかりいた自分に、失望しなかっただろうか。自分でも知らなかった声を出し、恥ずかしいほど体を濡らし、最後には力を失ってしまった姿を、男はどう思ったのだろう。聞きたくても、男はいなかった。
再び目を開き、石段があるはずの暗闇を見つめた。一人になれて安心したはずだった。それなのに、男が戻ってこなければ、自分がどう思われたのかさえ分からない。そのことが、牢へ閉じ込められた恐怖とは違う心細さとなって、胸の奥に残っていた。
まさか、誓約書まで交わすことになるとは思っていなかった。誓約書の最初には、『私、○○は――』と書かれていた。その空白へ自分の名前を当てはめ、坪井弥生、二十七歳と、自らの声で読み上げた。
それまで匿名のまま隠していた願望を、自分の名前で認める文章だった。その全文を最後まで読み上げることで、弥生は男に自由を預けた。
その声は録音されていた。震えていた声も、途中で息を継いだ間も、すべて男のスマホに残っている。思い出すだけで、顔が熱くなった。
しかも男が合図を決めようと尋ねたとき、いらないと答えたのは自分だった。二つの条項を削除し、解放を求める言葉を口にしても、日曜日の夜まで続けてほしいと、自分から言い直した。どうして、あんなことを言えたのだろう。
あの時も怖かった。それでも車内には男がいて、自分の言葉を聞いていた。これから何かが始まるという緊張の中で、それを望んでいる自分を、男に知ってほしかったのかもしれない。
けれど今、男はいなかった。残されたのは、誓約書どおりに自由を失った自分だけだった。
弥生は乱れた息を整えようとした。大きく吸い込むことができず、短い息を何度も継いだ。
私で良かったのだろうか。その不安が、今になって胸の中へ浮かんだ。男は満足したのだろうか。久しぶりで余裕もなく、怖がってばかりいた自分に、失望しなかっただろうか。自分でも知らなかった声を出し、恥ずかしいほど体を濡らし、最後には力を失ってしまった姿を、男はどう思ったのだろう。聞きたくても、男はいなかった。
再び目を開き、石段があるはずの暗闇を見つめた。一人になれて安心したはずだった。それなのに、男が戻ってこなければ、自分がどう思われたのかさえ分からない。そのことが、牢へ閉じ込められた恐怖とは違う心細さとなって、胸の奥に残っていた。

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