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素敵な笑顔
第26章 音 後日譚 嫉妬
「男のことなんか、絶対に好きにならないで」

 小さな声だったのに、信じられないほどの質量があった。
あまりの切実さに圧倒された。
おでこをくっつけなくても、
詩子さんの記憶が流れ込んでくる。
わたしと出会うずっと前、
詩子さんは大好きなひとを男のひとに取られている。
脳を焼かれるような激しい嫉妬。
勝負すらさせてもらえない、残酷な性別の差。
どんなに好きになろうとも、
初手から詰んでいる絶望、
どうすることもできない無力感。
詩子さんを初めて見たとき、
こんなに美人なのに、
自分のことを一ミリも好きになれないひとって感じた。
不思議に思っていたけど、これが答えなんだ。
もうあんな思いをするのは嫌。
そんな、ブラックホールになりそうなくらい、
ぎゅうぎゅうに圧縮された感情が込められていた。

「ライブには行きません。
行きませんから、安心してください」

 愛しかった。
腕のなかの詩子さんが、とてつもなく愛しかった。
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