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素敵な笑顔
第27章 音 後日譚 笑顔の絶えない家庭
「すみません、いつも待たせちゃって」

 鏡越しに目を合わせて、わたしは言った。

「慌てなくていいわよ。
何時に、って決まってるわけじゃないし」

 わたしの髪を整えるように撫でてくれながら、
詩子さんは言う。
口紅を塗っているのをじぃっと見られて緊張する。

「その色もいいけど、
もうちょっと赤味が強いほうがいいかも。
あたしの色、ちょっとわけてあげる」

 詩子さんは言い、わたしのくちびるに直接、
詩子さんのつけている口紅の色をわけてくれた。
爽やかなミントの残り香の、
やわらかいスタンプ。

「あんまりかわいいから、我慢できなかったわ」

 優しい目で言われて、
わたしはこれからお出掛けだというのに、
早く帰りたいと思った。
早く帰って、ひとがいるところではできないことを、
たくさんしたい。
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