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素敵な笑顔
第12章 詩 玩具の憂鬱



 駅まででいいよ、と何度も言ったのに、
結局お父さんはマンションの入り口の前まで送ってくれた。
これが美香ちゃんなら、
あたしが今日ひとりの部屋に帰るつもりなんかない、
ってバレているかも、と危惧しないといけないけど、
お父さんなら平気。
お父さんは、ちょっと申し訳ないって思うくらい、
あたしのことを知らない。
ずっといい子のままって、信じ込んでいる。

 心配性のお父さんのために笑顔で手を振ってから、
一旦マンションのエントランスのなかに入った。
物陰からこっそり、お父さんの車が走り去るのを見届ける。
不思議と罪悪感はわいてこない。

 テールランプが見えなくなってからゆっくりと十数え、
あたしは再び外に出た。
マスクをして黒縁のごつい伊達眼鏡を掛け、
うつむき加減で早足に。
そうでもしないと、
しょっちゅう男のひとに声を掛けられるので煩わしい。
ずっと昔に美香ちゃんに買ってもらったイヤホンもつける。
もうとっくに壊れてしまっているけど、
声を掛けられたときに、
聞こえないふりをするのに便利で重宝している。
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