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明君のお母さんと僕
第3章 昆虫図鑑
 明君のお母さんは当たり前のように僕の宿題を見てくれた。家庭教師のように、僕の隣に立って、勉強を教えてくれるのだ。教えるどころか、ほとんど答えまで出してくれるのだ。
 正直、僕は頭が悪い。明君のお母さんも初日に僕の宿題の出来具合を見て、そのことに気づいたに違いない。だから、丁寧にアドバイスをしてくれるのだけど、僕がなかなか答えを導き出せないでいると、最終的にはアドバイスが回答になってしまうのだ。
 明君のお母さんがそっと隣に立って、「難しそうね」と問題集を覗き込むように身を少し屈めた。僕は一瞬、体が震えた。明君のお母さんは椅子に座る僕の顔の高さまで、顔を近づけてくるのだ。
 いつもより距離が近かった。明君のお母さんの髪から漂うシャンプーの残り香と思える甘い香りがいつもより濃厚で、鼻腔をくすぐった。
「ふーん。これはね……」
 明君のお母さんが声を出すと、息吹も感じられる距離だ。
 僕は軽いパニック状態に陥り、何も頭に入ってこない。チラリと横眼で、明君のお母さんを見た。ホッペがツヤツヤしていて、耳たぶも小さくて柔らかそうで……美味しそうだ。
 そう、美味しそうという感想がピッタリだ。
「どうしたの?」
 明君のお母さんが笑みを浮かべた表情のまま、僕のほうに顔を向けたので、なおさら動揺した。桜色の小さな唇は少しテカテカと輝いていて、とてつもなく美味しそうだ。
「あ、いや、えっと……えっと」
 僕は普段からこんな調子で問題が解けない時は「えっと」が口癖になるので、明君のお母さんもそう勘違いしたようで、「一緒に考えようね」と優しい声で囁いてくる。
 昨日まで勉強を教えてもらっている時、ドキドキすることはあったけど、ここまで変な気分になることがなかった。明君のお母さんに抱きしめられて泣いた時も、女の人の体の柔らかさに感動したけど、それ以上に明君の死を悼む気持ちをようやく吐き出せた時だったので、性欲的なものはいつの間にか鎮まっていた。
 だけど今、僕は頭の中がイヤラしいことで一杯になっている。
 明君のお母さんに触りたい。感情を素直に行動に移したら、この瞬間にも明君のお母さんにガバッと抱きついて、襲い掛かりそうだ。
 もちろん、僕にそんな勇気などない。だけど、どんなに静まれ、静まれと念じても、ズボンの中にいる「オトナのボク」はムクムクと膨張して、下半身に圧迫感を与えてくる。
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